誤嚥性肺炎における抗菌薬

誤嚥性肺炎とは、通常高齢者や頭蓋内疾患等に伴う、嚥下機能の低下を伴う肺炎のことを示すことが多いと思われます。

 

通常、誤嚥性肺炎の診断は臨床診断であり、誤嚥のエピソードがあり、高齢者で、呼吸器症状を伴い、画像上肺炎像があるような、そんな感じの患者さんの場合、誤嚥性肺炎と診断していることが多いと思われます。

 

実際、誤嚥性肺炎の診断フローチャートようなものが、日本の主要団体よりガイドラインとして提示されていますが、ざっくり上記で書いたような感じの物が多いです。

 

最近、と言ってもだいぶ前(2019年)に、米国の主要団体より肺炎のガイドラインが提示されました。

 

この中に、誤嚥性肺炎もクリニカルクエスチョン(CQ)10に記載があります。

 

過去、誤嚥性肺炎は下気道より採取された細菌を培養した結果、嫌気性菌(空気が嫌いな菌)が絡むとされてきました。

嫌気性菌が絡む場合は、抗菌薬も少し特殊なものが必要となります。

いわゆる、市中で起きた肺炎であれば、アンピシリンスルバクタムという抗菌薬が、過去は多く使用されてきました。

けれども、このガイドラインには、嫌気性菌のカバーは必要ないと記載されています。

ところが、その根拠も弱いものである、とも記載されています。

 

さらに、その根拠を支持する論文が2つほど、引用されていますが、それぞれ2003年と1999年のもので、比較的古い文献が引用されていました。

なぜ、ここにきて、嫌気性菌カバーの不要性を、提示したのかは知りませんが、この問題は誤嚥性肺炎を診療する医療者の中では、長らく臨床の疑問の1つでした。

 

特に、日本の多くの医療者は過去のプラクティスを踏襲し、アンピシリンスルバクタムを使用してきたと思います。

このような、ガイドラインが出されたことで、日常のプラクティスに変化が起こるのかは、興味があるところです。

 

そもそも、ガイドラインとはそのように用いられるものですし。

けれども、先にも書きましたように、嫌気性菌のカバーが必要ないとはいえ、その根拠に乏しいとも言っておりますので、そのあたりの解釈は人により異なると思います。

 

例えば、2004年にSAFE研究という、輸液蘇生の際にコロイド(アルブミン)を使うかクリスタロイド(よく使用されている生理食塩水)を使うかで、比較検討した大規模な研究があります。

その結果は、どちらも全くと言っていいほど、主要評価項目の死亡率には影響を与えなかった、というものです。

 

通常、アルブミンのコストは生理食塩水と比較すると、膨大な費用が生じますので、医療経済的にも患者さんのためにも、生食を使用したほうが良いという結論が導き出されるはずです。

けれども、差がなかったということを理由に、悪くないんだからアルブミン使ってもいいんだ、と解釈する人もいます。

もちろん、アルブミンを使用したほうが、よいシチュエーションという場面もあります。

 

このあたりは、医療を行う上で問題になる部分ではあるのですが、目の前の患者さんに正しいケアを今すぐに提供することが必要です。

それが、EBMと呼ばれる、根拠に基づく医療というものです。

 

自分のプラクティスを変えることは、とても大変で勇気のいることですが、根拠に基づく医療の提供のためには、その結果(自分の意見と反対の結果でも)を受け入れる寛容な態度が必要なのだと思います。

 

シチュエーションに応じて、適切に高価で効果のある薬剤を使用する場合は、特に慎重になるべきだと思います。

医療者の中には、それほど根拠がないけど、びっくりするほど高価な薬剤を、どんどん使用する人もいます。

もちろん、そこには意図があるのだと思いますが、医療もタダではないので、もう少し慎重に、かつ根拠に基づいた薬剤の選択を行う必要があると思います。

 

医療者は、ときに製薬会社から、お弁当が出されます。

おいしいおいしいといって、何も考えずに食べる人もいれば、自分のお昼ごはんくらいは、自分で買うだけのお金はもらっているという方もいます。

どちらが、一概に良いとか悪いとは言えませんが、タダで弁当を食べれる、という安易な考えはあまり好ましい態度とは言えないと思います。

 

まとめ

正しい選択をするためには、ガイドラインが手っ取り早い、けどすぐ古くなる。

自分の専門領域であれば、そのガイドラインに根拠をもって、おかしい部分を指摘することができるようになる

それが、医療の好循環につながる、かもしれない