ワルファリンはいつ飲むべきか?

ワルファリンはいつ飲むべきか?
 
ワルファリンという薬は、抗凝固薬のゴールドスタンダードとも言える薬です。
近年は、DOACとかNOACといった、抗凝固薬が主役になりつつあります。
しかし、まだまだワルファリンという、古典的な薬のメリットはたくさんあると思います。
 
ワルファリンのメリットは、古いということです。
よく古い薬はダメ、というより新しい薬の方がいいんだという声をよく聞きます。
実際、製薬会社は新しい薬剤を作ると、その薬をプロモーションして、(ときに不案内な)病院の医師たちへ売っています。
 
実際には、患者さんが購入するので、医師が購入するわけではないのですが、日本の保険医療システムでは、医師の処方箋というある意味、医師のみにしか出せない崇高な?ものが必要となります。
 
処方箋に対して、OTCと言われる普通の薬局で購入可能な薬剤がありあります。例えば、ロキソニンとかは、その代表格です。
 
ロキソニンは、医師もよく使う解熱鎮痛薬の代表選手です。
けれども、胃潰瘍などの重篤な合併症があるので、長期服用する際には、胃薬が必要とされています。
 
医師も人間ですので、例えばロキソニンの副作用をすべての医師が周知しているわけではありません。
たとえば、凝固機能への影響や、腎臓や心臓が悪い患者さんに連用すると、良くないことがたくさん起こります。
 
そのへんの背景まで、踏まえてロキソニンという薬を出せればいいのですが、何せ日本の医師は多忙ですので、ときにスルーされて、心不全の増悪や腎機能の悪化、出血イベントの増加などにつながることがあります。
 
ですので、リテラシーを持った患者さんであれば、薬局で購入可能な薬剤を購入できるということは、とても便利になったものだと思います。
シチュエーションにもよりますが、医師が処方するよりも副作用の点からは、利点の方が多いような気がします。
 
自分で10割の代金を支払い、必要な薬剤を購入するということは、大事に使うことにも、多分つながります。
病院で出された薬の多くは、全部飲みきらずに、捨てられていることも問題となっています。
 
一方現状では、抗菌薬は薬局では購入することができません。
すべて、医師の処方箋が必要です。
しかし、その処方する医師も、抗菌薬の効果を理解せずに、おおくの抗菌薬が処方されているのが現状です。
ですので、医師によって処方可能な薬剤をある程度制限されるようなシステム導入が今後は必要だと思います。
 
例えば、外来ではある特定の細菌に効果的な抗菌薬で、多くの場合は戦えます。
それが、ダメな場合はそもそも、飲み薬では太刀打ちできない感染症であることが多いと思います。
また、抗菌薬はあくまでも支持療法の1つに過ぎませんので、患者さんの全体を見て必要な抗菌薬など、が選択されます。
 
なんだか、話がそれましたが、古い薬において、今後新たな副作用が出てくるということは、かなり稀な事象です。
しかし、新しい薬を使用すると、明らかにされていなかった副作用、それも重篤な副作用の可能性が出現する可能性があります。
 
よく言われるのが、発売されて2年は使用しない。
10年使用された薬は、割と安心して使える、と言われます。
 
帰納法演繹法という概念があります。
演繹法は、医療にたとえると、理論(生理学)的には正しいことと言えると思います。
けれども、理論的に妥当な治療を行っても、実際の結果は異なることが、ざっくり帰納法になります。
 
例えば、糖尿病の患者さんの血糖値を正常値にコントロールすることは、理論的に良いことです。
しかし、実際に臨床試験をしてみると、血糖値を正常に保つことで、逆に死亡率が上昇するということが、いくつかの研究で示されています。
このように、理論的に正しい(動物実験含む)=妥当性が担保されているわけではないということです。
 
冒頭のワルファリンの話に戻りますと、この薬剤をいつ飲むべきかという、疑問の1つに答えてくれた研究になります。
通常(なのかは知りませんが)、病院に入院すると朝に採血をして、その結果をみて夕方のワルファリンという薬剤の調整を行います。
そのため、夕方に内服させることが多い薬剤です。
 
通常薬剤は、飲まれないと何の意味もなさないので、朝にまとめることが多いです。
例えば、利尿剤は生理学的には入眠による臥床後の体液量を調整することで、心不全の発作の予防になると思います。
けれども、夜に利尿剤を内服すると、夜の尿量が増加して、トイレの回数も増加して、ときに失禁や転倒などの有害事象に繋がる可能性があります。
そのような薬剤は、朝の服用がスタンダードですし、仮に夕方に内服した方が良いという根拠があったとしても、実現可能性としては、乏しいのものになります。
 
で、今回の結果は、いつ飲んでもよいという結果でした。
1日1回の薬なので、もちろん相互作用などには気をつけるべきですが、自分の好きなタイミングで服用しても、医師の出したタイミングで服用しても、変わりないということになります。
 
最近降圧剤は、眠前に服用した方が良いという研究結果があるようですが、飲み忘れなければ服薬のタイミングをずらすだけですので、とても簡単にできます。
 
処方された薬剤をきちんと服用していると思っているのは、医師だけだという面白い格言のようなものがあります。
処方した結果、効果が乏しいと判断して、どんどん薬が追加されるということは、比較的稀ではないと思います。
薬は、色んな意味で(効果・副作用・コストなどなど)とても大事なはずですが、軽視されがちな印象があります。
 
今後も、このような臨床に即した研究結果を持って、実際の臨床にアプライできればよいのだと思います。
 

Annals of family medicine. 2020 Jan;18(1);42-49.