誤嚥性肺炎患者さんの評価について

誤嚥性肺炎という病気があります。いわゆ市中病院と言われる普通の病院では、ポピュラーな病気です。どのような病気かといいますと、まずは嚥下機能(飲み込む力)が低下しているという前提があります。

 

嚥下機能低下とは、飲みこんだもの(水や唾液含む)は、食道を通り胃に入りますが、この機能が障害されていることを通常示します。

 

誤嚥(ごえん)と似たような言葉で、誤飲(ごいん)というものもあります。誤飲は通常、子供が飲み込んではいけないもの、例えば“小さなオモチャ”や“タバコ”などを飲み込んでしまうことを示すことが多いような気がします。

 

ですので、通常は嚥下機能の低下に伴う肺炎のことを、“誤嚥性肺炎”と言います。

 

嚥下機能低下には、様々な要因がありますが、多くは高齢者です。高齢者と一言でいっても、最近は80歳ですと、「まだ若い」と言われます。定義上は、65歳以上の方が高齢者とされています。

 

たしかに、65歳で高齢者と言われると、多少違和感があります。ドラッカーは数十年前に、定年は65歳になり、更に伸びると言っていました。たしかに、最近は65歳を定年と規定する組織も増えてきたように思います。

 

誤嚥性肺炎の難しいところは、誤嚥性肺炎には様々な誤嚥性肺炎があるということが挙げられると思います。

 

といいますのも、そもそも診断とは、神の領域にどれほど近づくことができるかという、一種の人間(専門家)が恣意的に作り上げた現症に過ぎないと思います。現在の確定診断のゴールドスタンダードは、病理検査です。

 

例えば、肺炎でしたら、肺を直接病理学的に検討し、炎症の所見があれば肺炎となります。このようなマクロの領域に臨床的な症状で、極限まで近づける事が“診断”であると思います。詳しいことは知らないのですが、おそらく臨床的な症状と病理学的な所見を繰り返し検討することで、臨床的な診断を先代の医療者は作成されたのではないかと想像しています。

 

診断があることで、どのように役立つかと言いますと、診断は誰がみても同じ“診断”を言葉として捉えることができるという点にあります。たとえば、高齢者の低酸素血症の原因でしたら、いくつかあると思いますが、発熱・低酸素血症・画像所見・血液炎症所見・痰の細菌学的検査などの所見をあわせていくと、肺炎という診断に限りなく近づくことになります。

 

一方、誤嚥性肺炎の場合は、嚥下機能の低下に伴う肺炎ですので、背景因子を調整することがとても困難になります。嚥下機能が少し低下した誤嚥性肺炎なのか、嚥下機能がすごく低下した誤嚥性肺炎なのかでは、治療戦略も異なると思います。

 

たとえば、誤嚥性肺炎と診断したら、一般的には絶食と点滴と抗菌薬という治療戦略が多いと思います。けれども、絶食の期間が長くなるほど嚥下機能は低下していきます。例えるなら、英語を勉強している人が、勉強を休めば休むほど、英語の語彙を思い出せなくなるのと似ているかもしれません。

 

第一言語である日本語は、通常どんなに認知機能の低下をきたしても、忘れることはありません。けれども、第二言語の英語は使わないと徐々に忘れていくと思います。

 

誤嚥性肺炎における治療戦略で最も重要なのが、嚥下機能をどのように評価するか、という点に尽きると思います。評価の時点で、早々に医療者が口から食べることを諦めると、その人はおそらく一生口から食べ物を摂ることができない状態になります。

 

諦めるのは簡単です。特にこの評価についてのプロが、言語聴覚士(ST)といわれるリハビリスタッフです。嚥下が難しい患者さんの場合、このSTさんに評価してもう事が多いです。けれども、多忙なのか「こんな患者さん評価してといわれても」と言われることもしばしばです。

 

たしかに、STさんに丸投げの部分はあるのですが、そのあたりは分業といいますか、お互い得意な分野の掛け合わせで医療は成り立つと思っています。STさんにとっては、その患者さんの経口摂取をどのような形であっても、行うようにできる、ということを目標に置くのがプロだと思います。食べられるような方を評価して、食べられるようになるのは当然です。

 

たとえば、生死をさまよう集中治療室を専門にみる、集中治療医という医師がいます。この方々は、今までは死んでいたであろう人たちを、救命しかつ日常生活に復帰した後のことまで考えて治療を行っています。

 

ですので、プロフェッショナルである医療者にとって、簡単に経口摂取を諦めるという選択は、妥当な選択であるとは言えないと個人的には思ってしまいます。一医療者の判断で、その人の人生は左右されますので、そのあたりは念頭に、意思決定をしていただけると幸いです。

 

誤嚥性肺炎は奥が深いので、考えることは山のようにあります。臓器別専門家である呼吸器内科がみるような病気ではなさそうに思います。一方、総合診療など臓器にとらわれない診療科のほうが、多様性のある患者さんを評価し、比較的適切な判断が可能なのではないかと思います。

 

まとめ:口から食べ物が食べられなくなるということは、当事者にとってはとてもつらい選択になります。ですので、医療者はプロフェッショナルとして適切な評価を行い、意思決定を行う必要性があると思います。